AIに案内文やブログの下書きを頼んでみたものの、「うちの会社っぽくない」「毎回ゼロから説明するのが面倒」と感じて、結局自分で書いている。そんな話をよく聞きます。
原因は、AIの性能ではありません。AIは、あなたの会社のことを何も知らない状態で、毎回仕事を始めているからです。社員なら入社初日に教える「うちは何屋で、誰に、何を、どんな言葉で売っているのか」を、AIには一度も教えていない。だから毎回、長い前置きを打ち込む羽目になるのです。
これを解決するのが「会社の説明書」です。AIに読ませる前提として、自社の情報を一枚にまとめておく。たったこれだけで、毎回の指示は数行に縮み、出てくる文章の質が安定します。今回は、その中身と作り方をお話しします。
なぜ毎回の指示が長くなるのか
AIに文章を頼むときの指示は、大きく二つの部分に分かれます。ひとつは「今回何を書くか」。もうひとつは「うちはどんな会社で、どんな言葉で書いてほしいか」です。
前者は毎回変わります。価格改定の案内、採用ページの文章、年末のあいさつ。これは都度伝えるしかありません。
一方で後者は、ほとんど変わりません。事業内容、主な顧客、強み、使ってほしい言葉と避けたい言葉。これらは一年経っても同じです。それなのに、頼むたびに打ち直している。同じ説明を何十回も繰り返すのは、どう考えても効率が悪い。しかも、そのときの気分で説明の濃さが変わるので、出てくる文章の品質もぶれます。
変わらない部分を一度だけ書いて、使い回す。これが「会社の説明書」の発想です。社内の仕組みづくり全般に通じる考え方で、AI業務自動化でもまず最初に手をつける土台になります。
「会社の説明書」に入れる7つの項目
説明書と呼んでいますが、立派な資料は要りません。テキストで1〜2ページあれば十分です。入れるべき項目は次の7つです。
1. 事業の一行説明。 「誰に、何を、どうやって提供しているか」を一文で書きます。会社案内の冒頭に書くような、少し硬い言葉でかまいません。AIが全体の文脈をつかむための土台です。
2. 主な顧客像。 業種、規模、立場、そしてその人が困っていること。「地域の飲食店の店主で、人手不足で予約の電話対応に追われている」のように、人の顔が浮かぶ粒度で書きます。読み手が決まると、AIの文章は格段に的を絞ったものになります。
3. 選ばれている理由。 自社の強みを、できれば3つ以内で。「丁寧」「安心」のような誰でも言える言葉ではなく、「現場に足を運んでから見積もりを出す」のように、やっていることで書きます。ここが曖昧だと、AIは当たり障りのない褒め言葉で埋めてしまいます。
4. 使う言葉・避ける言葉。 自社では「お客様」ではなく「お取引先」と呼ぶ、「弊社」ではなく「私たち」を使う、「業界No.1」のような根拠のない表現は使わない。こうした言葉のルールを箇条書きにします。もっとも効果が見えやすい項目です。
5. 文体のルール。 です・ます調か、だ・である調か。一文の長さの目安。感嘆符を使うか。難しい言葉を使うか、平易にするか。社長が書いた文章を一本添えて「この調子で」と書くのが、いちばん手早く正確です。
6. 書いてはいけないこと。 実績の数字を勝手に作らない、具体的な社名を出さない、他社との比較をしない、価格を本文に書かない。AIは空白を埋めようとして、もっともらしい数字や事例を作ってしまうことがあります。禁止事項を先に決めておくと、後で直す手間がぐっと減ります。
7. 固有名詞の表記。 社名・サービス名・商品名・拠点名の正式表記と略称。英字の大文字小文字、スペースの有無まで決めておきます。地味ですが、表記ゆれは「AIが書いた感」の正体のひとつです。
この7つがそろえば、あとは「価格改定の案内文を400字で」と頼むだけで、自社らしい下書きが出てきます。
午後ひとつで作る手順
一から考え込むと、いつまでも完成しません。おすすめは、すでにある材料から組み立てる方法です。
まず、自社のホームページの文章、会社案内、過去に出した案内文やメールを集めます。この時点で、材料の大半はそろっているはずです。次に、それらをAIに読ませて、「この会社の事業・顧客・強み・文体の特徴を箇条書きにして」と頼みます。たたき台はこれで出ます。
そのたたき台を、社長自身が読んで直します。「これは違う」「ここはもっとこう言う」と赤を入れる作業が、実は会社の言葉を見直すいい機会になります。ここは人がやるべき仕事です。自社の言葉の決め方そのものについては、コンテンツ制作の考え方も参考になります。
最後に、直したものをテキストファイルひとつにまとめ、社内の決まった場所に置きます。共有フォルダでも、使っているAIツールの保存機能でもかまいません。大事なのは、担当者が代わっても同じものが使えることです。
ここまでで、慣れていれば午後ひとつ。初めてでも二日あれば十分です。
作った後、毎日の指示はこう変わる
説明書ができると、AIへの頼み方が変わります。これまでは「うちは福岡の設備工事会社で、主なお客様は……」と毎回の前置きが数百字あった。それが「添付の説明書に沿って、来月の休業案内を300字で」の一行になります。
変わるのは長さだけではありません。誰が頼んでも、同じ前提で文章が出てくるようになります。社長が頼んでも、事務の担当者が頼んでも、言葉のルールと禁止事項は同じ。属人化しがちな「文章の品質」が、仕組みとしてそろいます。
もうひとつの効果は、直す作業が減ることです。これまで「言い回しが違う」「この数字は出せない」と毎回直していた箇所が、最初から出てこなくなります。文章を書く時間より、直す時間のほうが長かったという方ほど、変化を実感しやすいはずです。
運用のコツは、直した内容を説明書に戻すことです。AIの下書きを手直ししたら、「なぜ直したか」を一行、説明書に追記します。これを続けると、説明書は使うほど賢くなり、手直しの回数は月を追うごとに減っていきます。半年に一度は全体を読み直して、事業の変化に合わせて書き換えてください。
まとめ
AIの文章が「うちらしくない」のは、AIが自社のことを知らないまま書いているからです。事業・顧客・強み・言葉のルール・文体・禁止事項・固有名詞の7項目を1〜2ページにまとめた「会社の説明書」を一度作れば、毎回の指示は一行で済み、誰が頼んでも同じ品質の下書きが出てきます。
材料は、いまあるホームページや会社案内の中にすでにあります。まずはそれをAIに読ませて、たたき台を出させるところから始めてみてください。
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